みんながいよいよ出発するというもっとも重大なその晩に、風向きは東にかわりました。風は十二時をすぎるとまもなくふきだしたのですが、日がしずんでからでなくては、出発しないことにきめていました。
海はあたたかく、深い青色は水晶玉の中の青のようでした。桟橋には荷物がうず高くつまれ、船がつながれていた水あび小屋のところまでいっぱいでした。
船は上下にゆれ、帆はまきあげてあり、カンテラがマストの先にともっていました。浜べは、だんだん暗くなってきました。ムーミントロールはちょうど、いけすとトロッコを満潮線のところにひきあげているところでした。
「もちろん、今夜は無風になるおそれがあるかもしれないぞ。」
と ムーミンパパはいいました。
「昼飯後すぐに出発することもできたんだけれども、このようなばあいには、日の入りを待たなければいけないのだ。順序正しくはじめるということが、本はだい一行からはじまるとおなじように、たいせつなことだからね。万事がそれできまるんだよ。」
それから、ムーミンパパは、ムーミンママとならんで砂の上にすわっていいました。
「ボートをごらん。ぼくらの冒険号をさ。夜みるボートはすてきだろ。これが新生活をスタートさせるやりかただ。マストの上にかがやくカンテラ、世界じゅうがねているあいだに、海岸線が遠ざかって見えなくなる。夜、旅をするのは世界の何よりもすてきなことだよ。」
「ええそうですとも。ハイキングなら、昼間してもいいけど、ほんとの旅に出るのは夜ですわ。」
と ムーミンママはこたえました。

 ―――トーベ・ヤンソンムーミンパパ海へいく」