「八月の光」

八月の光 (新潮文庫)

八月の光 (新潮文庫)

黒い人種の呪いは神様の課した呪いだ。しかし白人の背負わされた呪いとは黒人なのだ。(P331)

バイロンは自分をとりもどす。その顔にはもはや勝利の感じはない。しかし彼はしっかりと、年とった相手を見ている。たぶん相手の声も捉えようとしている。しかしまだそれができず、「彼らは夫と妻ではないんです」と彼は言う。
「彼女はそう考えとるかね?彼女も君のように言うと思うかね?」彼らは互いを見つめる。「ああ、バイロンバイロン、神の前で祈る身近な言葉は何だったね?女の生まれつきの忠実さの前で、二人の間に生れる子どもの前で、君はそう言えるかね?」
「あるいは彼は逃げないかもしれません。もし、あの賞金、あの金を手に入れればね。千ドルですっかり酔っぱらってしまって、何でもするかもしれません、結婚さえもね」
「ああ、バイロンバイロン
「じゃあわたしたちは――僕は、どうすべきだと考えますか?どうすればいいんですか?」
「去りなさい。ジェファスンを立ち去りなさい」。二人は互いを見つめる。「いや」とハイタワーは言う、「君はわしの助けなどいらん。君はもうわしよりも強いものによって助けられておるからな」
ちょっとの間バイロンは口をきかない。二人はじっと見つめあう。「誰に助けられてるんです?」
「悪魔にだ」とハイタワーは言う。

「きっとそうだろうね。あの連中はあたしたち女が土曜の晩にたった十分間できれいにできる仕事にも、さんざ手間とひまと郡のお金を使うんだからねえ。それもあんな馬鹿者のためにね。何もあの男のような道化がいなくたって、この町は寂しがるというわけでもないでしょ。彼がいなくなったって、この町がやってゆけなくなるわけでもあるまいしねえ。でもあたしが彼を馬鹿だと思うのはね、女を殺すことが何かしら男のためになるなんて信じこんだところさ、ちょうどその逆に男を殺すことが女のために・・・・・・そういえば警察ではもう一人の男を釈放するようだわね(p543)」