「戦争における人殺しの心理学」

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

献辞
謝辞
はじめに
第一部 殺人と抵抗感の存在【セックスを学ぶ童貞の世界】
第1章 逃走または逃避、威嚇または降伏
第2章 歴史に見る非発砲者
第3章 なぜ兵士は的を殺せないのか
第4章 抵抗の本質と根源
第二部 殺人と戦闘の心的外傷【精神的戦闘犠牲者に見る殺人の影響】
第5章 精神的戦闘犠牲者の本質 - 戦争の心理的代価
第6章 恐怖の支配
第7章 疲憊の重圧
第8章 罪悪感と嫌悪感の泥沼
第9章 憎悪の嵐
第10章 忍耐力の井戸
第11章 殺人の重圧
第12章 盲人と像
第三部 殺人と物理的距離【遠くからは友だちに見えない】
第13章 距離 - 質的に異なる死
第14章 最大距離長距離からの殺人 - 後悔も自責も感じずにすむ
第15章 中距離・手榴弾距離の殺人 - 「自分がやったかどうかわからない」
第16章 近距離での殺人 - 「こいつを殺すのはおれなんだ。おれがこの手で殺すんだ」
第17章 刺殺距離での殺人 - 「ごく私的な残忍性」
第18章 格闘距離での殺人
第19章 性的距離での殺人 - 「原初の攻撃性、解放、オルガスムの放出」
第四部 殺人の解剖学【全要因の考察】
第20章 権威者の要求 - ミルグラムと軍隊
第21章 集団免責 - 「ひとりでは殺せないが、集団では殺せる」
第22章 心理的距離 - 「おれにとってやつらは畜生以下だった」
第23章 犠牲者の条件 - 適切性と利益
第24章 殺人者の攻撃的素因 - 復讐、条件づけ、二パーセントの殺人嗜好者
第25章 すべての要因を盛り込む - 死の方程式
第五部 殺人と残虐行為【ここに栄光はない。徳もない】
第26章 残虐行為のスペクトル
第27章 残虐行為の闇の力
第28章 残虐行為の罠
第29章 残虐行為のケーススタディ
第30章 最大の罠 - 汝の行いとともに生きよ
第六部 殺人の反応段階【殺人をどう感じるか】
第31章 殺人の反応段階
第32章 モデルの応用 - 殺人後の自殺、落選、狂気の確信
第七部 ベトナムでの殺人【アメリカは兵士たちになにをしたのか】
第33章 ベトナムでの脱感作と条件付 - 殺人への抵抗感の克服
第34章 アメリカは兵士に何をしたのか - 殺人の合理化 - なぜベトナムでうまく働かなかったのか
第35章 心的外傷後ストレス障害ベトナムにおける殺人の代償
第36章 忍耐力の限界とベトナムの教訓
第八部 アメリカでの殺人【アメリカは子供たちになにをしているのか】
第37章 暴力のウィルス
第38章 映画に見る脱感作とパブロフの犬
第39章 B・F・スキナーのラットとゲームセンターでのオペラント条件づけ
第40章 メディアにおける社会的学習と役割モデル
第41章 アメリカの再感作

訳者あとがき

しかし、このような経歴にもかかわらず、リチャード・ホームズ、ジョン・キーガン、パディ・グリフィスなど、以前にもこの分野に足を踏み入れた人々と同じく、私は戦闘で人を殺したことがない。おそらく、みずからも心理的な重荷を背負っていたならば、研究に必要な冷静さや客観性を保つことはできなかっただろう。しかし、本書を埋め尽くす証言の語り手は、現実に人を殺したことのある人々である。


戦場で相手を「人間」だと感じるのは、家族の写真を懐に持っているのを見たりしたときらしい。だけれども、例えば奴隷貿易時代の黒人たちは「人間」ではなかったから簡単に殺されていた。
殺すのをためらう「人間」っていうのはどこで識別されるんだろう?