「コレラの時代の愛」
- 作者: ガブリエル・ガルシア=マルケス,木村榮一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/10/28
- メディア: 単行本
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「純愛」という言葉がチンプかつチープになって久しいが、それでもこの小説を表すにはこの言葉を使うしかないだろう。
永い話だ。長いんじゃなく、永い。出会い、文通、婚約、破綻、別れ、結婚、不倫といった、なんてことのない断片的なエピソードが延々と500ページも続く。きわめて退屈だ。退屈だけれども、面白い。それはやはり、読者の五感に訴えるような緻密・細密で繊細な描写のおかげだろう。
例えば書き出し。「ビター・アーモンドを思わせる匂いがすると、ああ、この恋も報われなかったのだなとつい思ってしまうが、こればかりはどうしようもなかった。」という一文で物語は始まるのだが、ここだけみても非常に濃厚で重圧な感じがよくわかるだろう。これがずっと続くのだ。ぴりぴりとした刺激はないが、ゆったりと深く味わえる小説だといえる。
登場人物たちは悩む。体面に、束縛に、性欲に、嫉妬に、生きることに。不倫もすれば殺人もある。アリーサの行動は、はっきりいってストーキングだ。決して道徳的にほめられたものではない。正直、不愉快に思うシーンもあった。それでも憎むことはできない。彼らは患者なのだ。「愛」というコレラのような病気に、正面から立ち向かう挑戦者なのだ。
そして最後。
「川をのぼり下りするとしても、いったいいつまで続けられるとお思いですか?」
フロレンティーノ・アリーサは五十三年七カ月十一日前から、ちゃんと答を用意していた。
「命の続く限りだ」と彼は言った。
鳥肌が立った。現実を見据え、その上で闘うことを、闘い続けることを決意した言葉。遠くを眺めるような瞳が目に浮かぶ。
映画も見てみたいなぁ。